人の臍帯血と牛の胎盤停滞

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妊娠中のお母さんと赤ちゃんを結ぶ臍帯と、胎盤の中に含まれる血液を臍帯血といいます。 臍帯血と胎盤は、赤ちゃんが生まれた後は不要で捨てられていたものです。 その臍帯血の中には、赤血球、白血球、血小板といった血液細胞をつくり出す造血幹細胞がたくさん含まれています。

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近年、人の医学ではこの臍帯血を利用した様々な治療が進められて来ているようですが、牛の世界ではまだそこまで進んでいません。

人間はあまりないようですが、牛は分娩後速やかに胎盤が排出しない病気があります。

胎盤停滞(たいばんていたい、英: retained placenta)とは、胎子娩出後、胎子胎盤が母胎盤から剥離しないで子宮内に残存し、一定時間内に排出されない状態である。 遺残胎盤とも言う。 ウシにおいて多発し、乳牛における発生率は7%から15%とされる。

通常6から8時間くらいで排出しますが、ビタミンE不足や低カルシウム血症等の原因により、後陣痛が弱かったりして、12時間以上胎盤が排出されないと胎盤停滞と診断されます。

無処置のままだと、7日以上子宮内に停滞したままとなります。

細菌感染が起こらなければ、2から3週間程度でミイラのように乾燥した胎盤が自然に排出されます。

しかし、通常は子宮内感染が発生し、胎盤の腐敗により徐々に悪臭が認められるようになり、子宮の回復を妨げて子宮内膜炎を発症してしまいます。子宮の炎症が強いと食欲低下、泌乳量の低下、努責(いきみ)、子宮内に血液膿性排出物の貯留等の症状が見られ獣医師による治療が必要となってきます。

何故、牛にこのような胎盤停滞が多いのかというと、胎盤の構造の違いが大きな要因になっているようです。

馬は散在性胎盤、人間は盤状胎盤という胎盤で、母胎盤と胎子胎盤の癒着は全体的に一律で、一部が剥がれ始まればそのまま剥がれてしまいます。

これに対し、牛の胎盤は多胎盤で子宮に沢山の胎盤が存在し、一部が剥離しても他の胎盤は癒着したままという状況が発生しやすい形態の胎盤と言えます。

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治療は、子宮の中に抗生物質を生理食塩水に薄めて投与したり、用手除去と言って直接子宮の中に手を挿入し、沢山ある多胎盤を一つずつ母胎盤と胎子胎盤の剥離を実施します。

用手除去は、無理に行うと子宮へにダメージが大きので、近年はあまり行わなくなっています。

馬は散在性胎盤なので分娩後、子宮が収縮し始めると簡単に胎盤が剥離し脱落するのが通常ですが、たまたま胎盤停滞が発症した場合は速やかに用手除去を実施しなければ、産褥熱や産褥性蹄葉炎を発症してしまいます。軽種馬より重種馬やポニーにこの傾向が見られます。

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胃下垂と似ている病気 第四胃変位

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胃下垂(いかすい)とは、胃が正常な位置よりも垂れ下がっている状態をいいます。 重症になると、骨盤の位置まで胃が落ち込むこともあるとされる疾患です。 さまざまな腹部症状を訴える方がいる一方、無症状の場合もあり、特有の症状がないことなどから、西洋医学では病気として扱われない場合も多くあります。胃のバリウム検査で確認して、胃が骨盤よりも下がっていると、胃下垂の状態です。
胃アトニーは、胃下垂が原因で胃の筋肉がたるみ、胃の動きが悪くなることです。

胃下垂に胃炎や胃アトニーなどが加わると、胃もたれや膨満感などの不快な症状を起こしやすくなります。

  • 胃下垂だけの場合には、自覚症状はほとんどありませんが、胃アトニーになると、消化不良による胃もたれや胃痛、ゲップなどがみられるようです。
  • 一般的に、体つきの細い女性に多いのも特徴です。
    また、甲状腺機能亢進症や脳下垂体不全などホルモンの病気や、お腹の手術、出産のくり返しにより起こることもあります。
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  • さて、牛にもこれと似たような病気があります。
  • 牛が持っている四つの胃のうち、人間の胃と同じ役割を果たしている第四胃が、弛緩(アトニー)して、収縮力が低下し胃内にガスが貯留、ガスが貯留するため第四胃が風船の様に膨らみます。そのために本来のあるべき下腹の位置から、上方へ移動してしまいます。
  • この病気を第四胃変位と言います。左の腹壁に沿って上がってきた場合を第四胃左方変位、右の腹壁に沿って上がってきた場合を第四胃右方変位と言います。
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    例えば、左方変位の場合は、左の図のように第四胃は通常は下腹に位置していますが、変位になると、右の図のように左腹壁に沿って風船が上がるように変位します。            


    左方変位の場合は胃へのダメージが少ないので手術の緊急性は少ないのですが、右方変位の場合は胃が捻れてしまうことが多く、その場合には出来るだけ早く手術をする必要があります。特に分娩後には胎子、羊水や胎盤の入っていた子宮の容積が無くなるのでお腹の中にスペースが出来易く、食欲が戻らない場合には四胃変位が発生し易くなります。しかし、四胃変位の発生原因には様々な説があり、単純に一つの原因でおこる訳では無いようです。

  • 治療法はほぼ100%外科手術です。第四胃に貯留したガスを抜いてから正常な位置に縫合します。今から40年近く以前、この病気が出始めた頃は外科手術ではなく、注射や投薬といった内科療法や、牛を転がして貯留したガスを抜く方法(ローリング)等が盛んに行われていましたが、再発が多いことから試行錯誤の末、外科手術の方向へ落ち着きました。
  • 外科手術は、立ったまま局所麻酔で右膁部切開を実施する方法と寝かして下腹部を切開する方法があります。どちらも1時間程度で終了します。私の診療所では起立のまま実施しています。
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立てない病気  乳熱

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乳牛の病気は一般的に、お産に関係して発生します。その中でも、分娩直後に急に起立できなくなる病気が「乳熱」です。

乳牛は一年中搾乳され続けている訳ではなく、分娩前1ヶ月から2ヶ月は乾乳期間と言って搾乳をしない期間を過ごします。

この後、お産し仔牛を分娩すると、急に泌乳(牛乳が出始めます)が始まり、血液中の大量のカルシウムが利用され、血液中のカルシウム濃度が急激に低下し(低カルシウム血症)、筋肉が収縮力を失い、立つことができなくなります。

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カルシウムは本来飼料や骨から補充されるはずであるが,体内での代謝が不十分だと産後起立が不能になり,低カルシウム血症が重度の場合は、循環障害,意識障害をきたすこともあります。

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消化管におけるCa吸収

Ca が消化管で速やかに吸収されるためには消化管運 動による吸収部位への搬送が必要だが,分娩乳牛では分 娩ストレス,妊娠子宮による消化管への機械的圧迫,エ ストロジェンや副腎皮質ホルモンなどの影響を受けて消 化管運動と Ca 吸収が抑制される。一方,血中 Ca 濃度の低下も,消化管運動を抑制する要因の一つで あ る 。 し た が っ て , 分 娩 乳 牛 で は 消 化 管 運 動 の 低下に伴う Ca 吸収効率の低下により低 Ca 血症を招き, さらに低 Ca 血症による消化管運動の低下によって血中 Ca 濃度がさらに低下する状況にあると考えられる。

 

 乳熱は初産牛にはほとんど発症することなく、三産目くらいから発症が見られ、高齢になればなるほど発症率が高くなっていきます。

加齢は骨代謝並びに消化管 Ca 吸収に影響を与える要 因です。牛の血中骨吸収並びに骨形成マーカー値は加 齢に伴い低下し,初産牛では経産牛に 比較して分娩前後に高値で推移します。また,カルシウム代謝に関連するビタミンD3の濃度は年齢と共に減少する様です。

我々、臨床獣医師は分娩後乳熱になり、立てなくなった乳牛の治療に呼ばれますが、日常色々な病気を治療しているなかでも、乳熱(低カルシウム血症)に対する治療でカルシウム剤の静脈注射ほど劇的な効果を目の当たりにすることはありません。

乳熱姿勢で起立不能に陥った牛が、カルシウム剤の注射で直ぐに正常の横臥姿勢となり、ちょっと気合をかける(起立を促す)とその場で立ち上がることがよくあります。

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コロナウイルスは牛にも?

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コロナ禍も約2年間にわたり、緊急事態宣言も国民の間にはインパクトがなくなってきています。それなのに更に感染力の強い変異ウイルスが陽性者の8割、9割を占めるようになり猛威を振るっています。

さて、このコロナウイルスが人と同じ様に牛の場合も重度の肺炎を起こすかと言うとそうではない様です。

コロナウイルスは、遺伝学的特徴からα、β、γならびにδのグループに分類される大きなファミリーです。
あるものは人々に病気を引き起こし、あるものはウシ、ラクダ、ネコ、コウモリを含む動物の間で循環します。

最近登場した新型コロナウイルス(2019-nCoV)は、すでに報告されているウシコロナウイルス、中東呼吸器症候群(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV)などと同じくβコロナウイルスに分類されていますが、2019-nCoVは、ウシコロナウイルスとは異なります。

ウシへ感染するかなど詳細については不明です。
今後の調査により詳しい状況が判明すると思います。


【回答者】
酪農学園大学 獣医学群 獣医学類
教授 萩原 克郎

我々獣医師が日常臨床的に遭遇するのは、ほとんどが下痢(腸炎)です。

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このコロナウイルス感染による腸炎(下痢)を起こす伝染病で、成牛に感染した場合は生産する牛乳の量(泌乳量)が大幅に減少します。

流行は主に、畜舎で並んで飼養されている牛群で発生するため、流行が起こると大きな経済的損失が起きます。

下痢便や鼻汁を介して経口感染します。人の場合は、マスクの着用、黙食、ソーシャルディスタンス等の予防方法が提唱されていますが、牛は並んで繋がれている場合が多く、マスクもできないし、ソーシャルディスタンスも無理なので一頭が発症すると瞬く間に牛舎全体に拡がります。

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そのため、牛舎内にコロウイルスを持ち込まないことが大事な予防法となります。つまり、このコロナウイルスの流行している牛舎から直接(長靴や衣服の着替えや消毒をしないで)新しい牛舎に入ったりしないことがポイントとなっています。牛舎に出入りする人間が病気に罹っている牛の鼻汁や唾液の飛沫(ウイルスを含んでいる)を運んでしまうのが感染が広がる原因になります。

人のコロナウイルス予防対策でも、人の流れを制限することを盛んに訴えていますが、テレビで都会の映像を見ていると、日本では全く効果が出てない様ですね。

オーストラリアの様に一人陽性者が出た段階で、直ぐに街をロックダウンしてしまうくらいでなければ人流制限による予防は無理な様ですね。

コロナのワクチンは牛の世界では既に利用されており、牛の病気の発症が一番多い分娩に合わせて、分娩前にワクチン接種が行われています。実際に接種している牛舎ではかなりの効果が見られます。

人のコロナワクチンの接種も徐々に進んでいる様ですが、早く2回の接種が終了できる様になるといいとは思います。

変異株が主流になりつつあるようなので、2回のワクチン接種が完了してもコロナウイルスに感染しないとは言い切れないとは思いますが、少なくとも重症化を避けることはできそうなので、積極的に接種完了を目指すことが大切でしょう。

 

 

 

牛の乳房炎 原因と症状 

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乳牛の病気には、人間と同様で色々なものがありますが、最も代表的なものが乳房炎です。

人でも赤ちゃんに授乳の期間に、乳房の腫れや痛み、発熱を伴った状態になる場合があります。これが乳腺炎といわれています。

乳牛で同じ症状が出た場合が乳房炎です。酪農現場においてこの病気が発生し問題としてなっているのは、昭和の初めにミルカーによる機械搾乳が始まって以来、技術の進歩と共にミルカーも格段の性能の進歩がありますが、今だにこの病気は無くなりません。

他の職種で同じ一つの問題点を解決できないまま何十年も経過している分野はないと思います。でも、酪農分野における乳房炎は永遠の課題の様に感じられる問題です。やはり、乳牛は機械ではなく動物であることを考えれば当然のことかも知れません。だから、酪農は難しい職業です。

1、症状から分類

大きく 分けて「臨床型乳房炎」と「潜在型乳房炎」に分類されます。臨床型乳房炎とは肉眼的に乳房の異常を伴うもので、乳房が急に赤く腫れ上がったり痛がる場合(急性乳房炎)と、これらに加えて起立困難、脈および呼吸数の増加といった全身症状を伴う場合(甚急性乳房炎)があります。

臨床型乳房炎は牛乳や牛自体に肉眼的に認知できる症状が現れるので、すぐ治療になりその牛乳が出荷されることはありません。

でも、潜在性の乳房炎の場合、全身の症状が出ていないために細菌を含んだ牛乳が出荷されてしまう可能性はあります。消費者としてはこの点が気になりますが、製品にするときに高温殺菌しているので安心です。

 

2、感染経路から分類

乳房炎を感染経路から考えると、「伝染性乳房炎」と「環境性乳房炎」に分類されます。伝染性乳房炎とは、搾乳者の手指や搾乳器具を介して牛から牛へ伝搬する乳房炎です。主な菌種として、黄色ブドウ球菌や無乳性連鎖球菌があります。特に、黄色ブドウ球菌は日本でも広く分離(検出)される菌種です。乳房内に膿瘍(ピンポン玉から野球ボールぐらいのこぶ)を作り、多くの場合菌はこの中に潜みます。抗生物質で治療を行っても膿瘍の内部には薬が到達しないため、黄色ブドウ球菌の排除技術の構築は獣医学的にも大きな課題として位置付けられています。この菌は人の場合、食中毒の原因菌としても知られていますが、搾乳者は搾乳手袋の装着、一頭ごとの乳頭清拭など衛生的な搾乳を行っています。

環境性乳房炎は環境中(特にベッドなど)の菌が乳頭口(乳頭の入口)から侵入し、乳腺に定着することで発症に至るものです。菌の種類として大腸菌やクレブジエラ、さらに緑膿菌などがあります。環境の適切な管理が環境性乳房炎の制圧において重要であると同時に、通常は乳頭の入口にケラチン層という細菌の進入を防ぐ感染防御率の層がありますが、この感染防御能力が減退して細菌が侵入してしまう様です。これらの環境性の菌は徹底した衛生管理でも完全に防御は不可能です。特に大腸菌は通常の糞便の中に存在します。牛がこれらの菌に感染してしまう時は、「日和見感染」といって牛は体調的に弱った時に感染が成立するものといわれています。だから、乳牛はいつもストレスなく飼うことが必要なので、乳牛が気持ちよく生活できる様に農家の方は最大限努力しています。

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一番大きい第一胃(ルーメン)

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前回お話しした牛の胃は四つあり、皆さんは焼肉屋でそれぞれ4つの胃を食べたことがあるのでは無いでしょうか。

・第一胃(ルーメン)

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第一胃を切り開くと蓑笠に似ていることから「ミノ」と呼ばれ、別名「ガツ」ともいいます。・

・第二胃

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見た目が蜂の巣に見えるので「ハチノス」といわれます。

・第三胃

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第三胃は「センマイ」といわれます。

・第四胃

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第四胃は「ギアラ」と言われます。語源は労働者の報酬(ギャラ)からきたものともいわれます。

 

実は牛の体重の約15%が胃の重量と言われており、いかにその臓器が大きいかが伝わってきますよね。牛は基本的に草食ということもあって大量の草を食べなくてはならないわりに身体が大きいため、胃袋も大きくなくてはならないわけです。ルーメンは牛の体の中で一番大きい器官で、その内容物を含めると容積では200kg前後でドラム缶一本分のあります。構造的には外側から、漿膜層、筋層、粘膜層から成り立ちます。

牛のように草を大量に食べる動物は栄養が必要となりますが、草食の牛からすれば大量の草を消化するのも一苦労です。だからこそ、反芻を繰り返して消化を促進するわけです。反芻することで微生物が草を分解し、消化を助けてくれます。

反芻とは哺乳類が行う食べ物の摂取方法の1つで、食べ物を口で咀嚼して胃に送り、ある程度消化した後に再び口に戻して咀嚼することを言います。それを繰り返して食べ物を消化することを反芻と呼び、主に草食動物などに見られることが多いです。つまり、草食動物は、急いで草を食べて、安全な場所に行ってから、横臥(座る)してゆっくり反芻により消化を行います。

最初に、第一胃に入った草は第一胃から第二胃に移動してから、吐き戻され再び口の中で咀嚼されます。そして、流動物になって再び嚥下される(飲み込まれる)と食道溝反射により大部分が直接第三胃に流れ込みます。

この後、人間等の胃と同様の働きをする第四胃と腸により消化吸収されます。

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第一胃内の発酵(ルーメン発酵)は、食べた飼料を宿主のエネルギー源に変換するためのものです。食べた飼料はまず口腔内で咀嚼され、ルーメンへと運ばれます。その後ルーメン壁への繊維の摩擦が刺激となってルーメンの連続した収縮が始まり、反芻が起こります。飼料は口腔内に吐き戻され、通常1回の反芻で50~70回の咀嚼を受け物理的に破壊されます。

第一胃内の微生物は発酵によって、飼料と水を揮発性脂肪酸 (VFA) とガス (メタンと二酸化炭素)に変換します。飼料中の繊維は細菌によって素早く分解され、VFAと乳酸になります。

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草の消化過程はこのような順路になり、最終的にVFA(エネルギー源)と「あい気」になりますが、 この「あい気」が地球温暖化の要因とされているのは牛がかわいそうですね。

人間もたくさん二酸化炭素(CO2)を排出しているのにね。

 

 

胃が四つある動物

人間のや馬、犬、猫等の身近な動物は、普通に胃は一つですが、牛、緬羊、やぎ等は胃が四つあります。

胃が四つある動物たちは、一般的には反芻動物といわれます。お聞きになったことはありますか?

反芻とは何か? これは一度飲み込んだ牧草等を、もう一度胃から口の中に戻してからよく噛んでまた飲み込むという行為です。

一般的には食べたものを吐き戻すことはありません。胃が一つしか無い動物にとっては、吐き戻すこと大変な事で、滅多に吐き戻すことはあり得ません。吐き戻すときは「嘔吐」といわれ、食中毒の時や腐廃物等を間違って食べてしまった時に、身体が拒否反応として起こる現象です。人間の場合は飲み過ぎで嘔吐という事もありますね。

反芻動物の最大の特徹は、四つの胃(第一胃、第二胃、第三胃、第四胃)を持つことです。

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反芻動物は、通常立った状態で牧草等の餌を食べ、横臥(座った状態)で反芻(噛み返し)を繰り返します。食べた牧草は、最初に第一胃に入り、次に第二胃にいってから口の中へ戻ります。ここで良く咀嚼されてから流動物となって再び飲み込まれます。

再度飲み込まれた流動物は、食道口反射という反射が起こって、第一胃ではなく、第三胃へと流れ込みます。第三胃で水分が減ってから第四胃へ送られてから腸管へ流れていきます。

反芻動物の第四胃が人間等の単位動物の胃と同じものです。沢山の牛の開腹手術をしていると、時々、第四胃に胃潰瘍があるの見ることがありました。のんびりそうに見える牛も人間同様にストレスを抱えながら生きているのでしょうね。

四つの胃の中でも第一胃はルーメンと呼ばれ、成牛で150~250リットルの膨大な容積をもち、そこには、細菌をはじめとする様々な微生物が多く生息しています。ルーメン内ではこれらの微生物が主役となります。微生物は高等動物にはない繊維質を分解する酵素を持っているのです。

ルーメン内では、牛自身が消化できない繊維質が、彼らの働きによって分解されます。人間や犬の大腸にも細菌などの微生物が存在していますから、食物中の繊維質の5%程度は分解されます。これに対し、ルーメンをもつ牛に至っては、50~80%も分解されると言われています。

ルーメンという大きな発酵タンクを持つことによって、人間がうまく利用できない繊維質や質の低いタンパク質を含む草を食べて、肉や乳に変換する反芻動物は人間にとってかなり有益な動物である と言えます。ルーメン内で牧草の繊維質は揮発性脂肪酸(VFA)とメタンガスに分解されます。この揮発性脂肪酸が牛の栄養源となるのですが、同時に発生するメタンガスはゲップや糞便と共に外気へ放出されるので、地球温暖化の原因のひとつにされてしまっているようですね。

残念ですね。

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