黒い雨訴訟 国は控訴へ

7月29日に広島地方裁判所判決の出た「黒い雨訴訟」の問題について、厚生労働省は県と市に対し、控訴を求める方向で検討していることが分かりました。市と県は政治判断による控訴見送りと被害者の救済を強く求めています。

8月8日の時点で、厚生労働省は広島地裁の判決に従い原告全員に被爆者健康手帳を交付するのは困難と説明。その理由としては、長崎原爆で、国の指定地域外にいた被爆体験者に被爆を認めなかった最高裁の判決が、2019年11月と2017年12月に2回出ていることや、健康被害を黒い雨の影響とする新しい科学的知見が示されなかったということを理由として挙げています。

一方松井市長は被害者の救済が最終目的、区域の拡大が見通せるかどうか見極めたいと語ったということです。

現状を踏まえ厚生労働省は控訴を求めた際、援護対象区域の拡大の見通しが必要かどうかを検証する方針をうち出し、市と県に譲歩を促すとの予測が出ていました。また安倍晋三首相は山口県の出身であり控訴断念を政治判断する余地も残っているという見方もあるようでした。

その結果、厚生労働省の指示により市と県は広島高裁に控訴したと今日発表しました。

その根拠となったのは、厚生労働大臣から言われた次のような言葉です。「黒い雨の降雨地域の拡大も視野に入れた再検討をする。これまで蓄積されてきたデータを最大限活用し、最新の科学技術を用いて可能な限り検証する」という言葉であったと言われています。

松井市長は加藤厚生労働大臣が援護対象区域の拡大も視野に入れた再検討するという方針を示したことを重く受け止め控訴せざるを得なくなったと述べています。

松井市長は控訴しなければ、今回の原告は被爆者健康手帳を受け取ることができるが、同じような方々は他にも沢山いる、全員救済を正面から認める方向で行かなければならないと語ったそうです。

加藤労働厚生大臣は検証について、厚生労働省内部に研究班を設置する考えを示し、さらに対象の方々の高齢化が進んでおり、これまで蓄積されたデータに人工知能( AI)などを活用することも必要で、スピード感を持って進めていきたいと述べています。

この加藤労働厚生大臣の述べられた内容が実際に今後間違いなく進められていくことを祈るばかりですが、本当に被害者救済を最優先するならば、厚生労働省は控訴は断念した上で、省内に研究班を設置し、援護対象区域の拡大を検討すべきではないでしょうか。

戦後70年以上経過してしまっているのですから。