産褥性心筋症

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心臓はポンプのように血液を全身に送り出しています。 この働きが低下して全身に必要な血液を送れなくなってしまった状態が心不全です。 心不全自体は疾患の名前ではなく、心筋梗塞・心筋症・弁膜症・不整脈などが原因となって、最終的に至る症候群が心不全であり、全身にさまざまな症状を起こします。

心不全は、だんだん生命を縮める病気です

心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。 心臓が悪くなる原因としては、以下が考えられます。また、それぞれの病気に対して、それぞれ適した治療法があります。

  1. 1血圧が高くなる病気(高血圧)
  2. 2心臓の筋肉自体の病気(心筋症)
  3. 3心臓を養っている血管の病気(心筋梗塞)
  4. 4心臓の中には血液の流れを正常に保つ弁があるが、その弁が狭くなったり、きっちり閉まらなくなったりする病気(弁膜症)
  5. 5脈が乱れる病気(不整脈)
  6. 6生まれつきの心臓病(先天性心疾患)

引用:日本循環器学会・日本心不全学会

 

牛の病気でも心不全につながるものは沢山あります。

創傷性の心膜炎や心嚢炎、心内膜炎等がありますが、我々臨床現場でよく出会うのが、産褥性心筋症です。

産褥性心筋症は分娩後、急激な血中カルシウム濃度の減少と、心不全のような激しい症状を呈して急死する病気です。

体格の良い高泌乳牛に多くみられる傾向があります。

発症牛には次のようなことがみられます。

1、血中カルシウム濃度が正常牛の1/3程度となり、収縮力が弱まり、血圧が低下する。

2、心臓で、心筋細胞が変性、壊死した小病巣が広範囲で存在し、心機能に異常が起こる。

3、発症牛の心臓を電子顕微鏡で詳しく調べると、分娩前から心機能の低下が確認できる。

これらのことから、分娩前から心機能が低下していた乳牛に、分娩後、激しい低カルシウム血症が起こった結果、心臓に十分な血液と酸素が行き渡らなくなり、心筋細胞が変性、壊死して発症すると思われます。

症状は、分娩後起立不能になって横臥、唸り声(呻吟)、苦悶するのが特徴で、重症の場合は発熱、発汗、流涎、遊泳運動が見られます。

治療としては、血中カルシウム濃度を上げ、心臓への血流量の増加を図ることが基本になります。

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臨床的には、重症例にカルシウム製剤を急速に静注してしまっては心臓へ負担が大きく、その場で死亡してしまうことがあるので、リンゲル液でカルシウム剤を希釈しながら点滴します。

丁寧に治療しても死亡してしまうことが多い怖い病気です。