牛乳は、なぜ飲まれなくなってきたのか?

牛乳は私たちの生活の中でどのような役割を果たしているのかね?。

私たちが小学校や中学校へ通っていた昭和の時代は、まだまだ家庭の食事でも子供の成長に必要な栄養分を十分に取ることが出来なかったから、学校給食の中で栄養分補助食品としての牛乳は大いに役立っていたんだよね。

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でも、飽食の時代と言われフードロスの多い現代は、牛乳の役割そのものもかなり変化してしまったと言えるよね。値段もかなり安く、色々な清涼飲料水よりは安く、時には水よりも安い値段の時があるね。

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飲むために販売されている牛乳は、牛から搾乳されて出荷された生の乳を、殺菌して無調整のままパックに詰めて販売しているもので、

代表的な牛乳の成分としては次のような表示を見たことがあるでしょ。

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牛乳はカルシュウムの補給に良いと一般的によく言われているけど、ミネラルの他にもビタミンが沢山含まれていて、栄養補給にはもってこいの飲料と言えるんじゃない。

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牛乳の水以外の部分は乳固形分といい、乳固形分は乳脂肪分と無脂乳固形分に別れます。昔から脂肪が一番注目されてて、母牛を改良する場合も主に乳の脂肪分と量に注目して改良が行われてきたのだけど、最近は無脂固形分にも着目した改良が行われるようになっているよ。

牛乳があまり飲まれないようになってしまったのは、栄養があってもその味が今の時代の人々には受け入れられなくて、また飲んだらお腹がゴロゴロする乳糖不耐症(アジア人に多い)が日本人にも多いことが原因かもしれないね。

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生乳をそのまま飲んだら風味もあって美味しいけど、殺菌することが法律で義務付けられているので乳業会社は必ず殺菌してから出荷しているんだよ。

上の図に見られるようにその牛乳がどのような方法で殺菌されたかが表示されてて、例えばこの牛乳の場合は、120度で2秒間で殺菌したと表示してあるよ。

最善を尽くして雑菌が混入しないように搾乳作業を実施し工場へ出荷しても、僅かに生菌が混ざってしまっていることがあるので、この菌を牛乳の製品の中に残したまま消費者へ出荷してしまうと、爆発的に増殖して腐ってしまうことが予想されるんだよ。だから殺菌が義務付けられているんだよ。

でもね、この高温の殺菌方法が牛乳本来の美味しい味と風味を失わせてしまう原因となっているのは間違いないと思うよ。折角、酪農家さんが美味しい生乳を搾るために、餌を収穫する畑の土地改良や牛の健康管理に気を配っているのに、製品になる最後に殺菌により風味を失った美味しくないものにしてしまっているのは残念なことだよね。私は職業柄、搾乳現場で搾乳されたそのままの生乳を飲んだことがありますが、今まで味わった経験のない素晴らしい風味と味だったよ。

高温殺菌されてない牛乳を消費者に提供することできれば、食卓に上がる機会もまだまだ多くなっていくのではないかなあ。

現在、販売されている牛乳の中で、少しその風味を保ったまま販売されているものがあり、それが低温殺菌牛乳だよ。

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低温殺菌牛乳とは先程の高温殺菌ではなく、上の表示に見えるように、60度30分、78度20分等の低温で少し長く殺菌され販売してる牛乳。

この写真は北海道の地方生産の牛乳だけど、サツラク乳業や小林牧場の低温殺菌牛乳も美味しいよ。

一度、飲んでみて!!

牛乳の搾り方

 

みなさん、観光牧場で搾乳体験として手搾りを体験したことある人いるかな?

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乳搾りの始まりは手搾りだったのよ。

酪農業の最初の頃は、一軒の農家に1頭か2頭の乳牛を飼って、手搾りで乳搾りし、ウンコやオシッコは堆肥として発酵、畑の栄養源として利用するところから始ったんだよ。

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北海道を例にとれば、明治の開拓時代にエドウィン・ダンというおじ様がアメリカから日本に来てその指導により酪農が始まり、開拓農家に1、2頭の乳牛が飼われるようになっていったんだよ。

昔の乳牛は、まだあまり品種改良されていないので乳量少なく、世間的にも冷蔵庫なども普及していなかったので、牛乳は手に入ることも少なくてね、手搾りでも十分に間に合ったのよ。1960年頃まで手搾りが主流で、ミルカーという機械搾乳が本格的に利用され様になったのは大阪万博、よど号ハイジャック事件、日本をニッポンの呼び名に統一、三島由紀夫割腹事件なんかがあった1970年代からなんだよね。

私には、記憶にあることばかりなのでそんなに昔でないような気がするけど、計算してみるとなんと約50年も前の頃だよね。

随分昔だな。50年もの間、機械搾乳の欠点である乳房炎の発生を克服できずにいるということは、子牛による哺乳が生き物の営みとして自然で、機械搾乳という人間の搾取は如何に不自然なことであるかを物語っているよね。

 

ミルカーの種類は2つに分けられ、「バケツ(バケット)型」と「パイプライン型」があり、機械搾乳の始まりは、バケット型だけで搾乳が行われていたんだよ。

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バケットミルカーで搾乳していた頃は、搾乳した牛乳(約20kgから30kg)を人力でバルククーラー(搾乳した牛乳を冷却して貯蔵しておくもの)の中へ入れなければならなくて、これが重くて重くて酪農家の重労働の一つだったんだよ。

 

f:id:sinmaisinia:20210103160525j:plainバルククーラー 

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クーラーの中は羽が回って自動的に撹拌されているよ。

 

バッケットの牛乳をバルククーラーにあける重労働から解放したのが、パイプラインミルカーだよね。

 牛から搾り出したお乳を直接牛乳処理室までパイプで送乳する方式で、運ぶ手間がはぶけるため、中・大規 模の経営の酪農が使っているよ。

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                カウシェイド用パイプラ インミルカー

現在、バケツ型は子牛に飲ませる牛乳、乳房炎および治療中の出荷できない牛乳の搾乳に使っていて、パイプライン型は、牛舎内にミルクの通路になるパイプとミルカーを真空にする為のパイプの2種類のパイプがつけられていて、その2つのパイプラインを使って出荷用の牛乳を搾っているよ。

パイプラインミルカーは、牛舎内で使用するカウシェイド用パイプラ インミルカーと、「通称パーラー」といわれる専用搾乳室で使われるミルキングパーラー用パイプライン ミルカーの 2 種類があって、補助事業などで「パーラー」が増えつつあるよ。

f:id:sinmaisinia:20210103161826j:plainミルキングパーラー用パイプライン ミルカー

 

カウシェイド用パイプラインミルカーは小規模、中規模酪農家で、ミルキングパーラー用ミルカーは大規模酪農家で使っている。

ミルカーの装着の時、カウシェイド用は中腰にならなければならず腰が痛くなりやすいけれど、ミルキングパーラー用は起立したまま装着できるので腰に負担がかからないのが非常にいいんだねこれが。だから多少値段が高くても、腰に自信がなく、経済的に余裕のある酪農家は100頭以下の少ない頭数でもミルキングパーラーを利用しているんだよ。

 

最近では「搾乳ロボット」も登場、アメリカやカナダ等の海外や北海道の酪農家さんの間で普及しつつあるよ。

搾乳ロボットとは、それぞれの牛個体のデータをセンサーで読み取り、乳量や乳房の形を読み取り、全自動で搾乳を行ってくれるという、農家にとっては夢のような機械なんだな。でも値段は非常に高く、60頭用で約3、000万円近くするのでそう簡単には使うことができなかったんだよね。

でも、最近では国のクラスター事業(かなり高い補助率)で多くの農家が取り入れ始めていて、酪農家の人も労働が楽になってはきてはいるけど、近い将来、この搾乳ロボットの更新時期が来た時に国が今のような補助事業を行ってくれるかどうかが、すごく心配。

牛乳って?

牛乳って? エ〰 そんなのみんな知ってるべさね。漢字の通り牛の乳ださ。

遠い昔、原始人が牛を家畜として飼い始めてから、なんと仔牛が飲むための乳を自分が飲みたくて、手で絞って横取りを始めたのさ。

みんなは「うし」というとどんな動物を想像する?

日本では、牛乳を搾るための乳牛か、但馬牛などで有名な肉牛がうかんでくるしょ。

でも、世界には多種多様な乳牛や肉牛がいてさ、日本でもよく見る白と黒の斑模様のホルスタイン種やあんまり馴染みの無い灰色のブラウンスイス種などの乳牛。

アバディーンアンガス種やヘレフォード種などの肉用種、乳肉兼用種のシンメンタールなども家畜として飼われているのさ。

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ホルスタイン種            ブラウンスイス種

この2種類が日本で見られる乳牛だけど、左写真のホルスタインがほとんどで、ブラウンスイスは滅多に見ないよね。

 

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アバディーンアンガス種           黒毛和種

 

特に黒毛和種は、日本固有の肉牛として、生体(生きたまま)や凍結精液(ほら、人工授精に使う牛の種さ)は海外に輸出しない方針を国がとってしまっているのよ、そして国内でも「我が県の種牛は絶対に他の県には出さない」というせま〜い考え方が未だにはびこっているのさね。

もう少し頭柔らかくて、みんなで情報共有した方がより美味しい肉を作ることができると思うんだけどね。

でも、もう既にオーストラリアやアメリカでは、なぜか黒毛和種がいるんだわ。以前にテレビでやってたけど、昔、和牛農家が勝手に生体を輸出したらしいよ。

 

さて、上にある2枚の写真(アバディーンアンガスと黒毛和種)、皆さんには同じ牛にみえないかい?この2種類の種類の違いわかるかな?

気がついた? 黒毛和種は角があるけど、アバディーンアンガスは角が無いんだよね。

 

さて、みんなの生活の中で乳牛と関連したことといえば、色々あるとは思うけど、学校給食でいっつも出ていた牛乳じゃないかい? もちろん、ヨーグルトやチーズ等の加工乳製品も食べているとは思うけど、なんと言っても牛乳が最も身近にあるんじゃない?

では、牛乳はどんな物で、どのように作られるのか。

皆さん、考えたことはある?

写真などでよく見かけるあのオッパイの大きいホルスタイン種を飼えば、牛乳を搾り続けられると思ってない?

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違うんだなこれが。ホルスタイン種は牛乳を沢山搾るために改良されてきた種ではあるんだけど、本来は動物、牛乳は子牛に授乳し、育てるためのものだよ。

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子牛を育てるための牛乳を食品にするのに、人間が家畜として乳牛を飼って機械で搾り(搾乳)、食品として手を加え(殺菌)て販売する つまり、子牛を妊娠し産まなければ牛乳は出ないんだよ。

乳牛を飼っている酪農家は、牛の健康状態を観察しながら、牛に人工授精を実施し妊娠させ、約290日後にはお産(分娩)できるように管理しているけど、 現実的には平均で430日くらい(北海道の平均)に一回出産できるようになってるよ。

お産した牛の牛乳は4、5日くらいは「初乳」と言って子牛に渡すための免疫タンパク質の沢山含まれた牛乳が出るため、この期間のものは子牛に沢山飲ませて、子牛を健康的に育てる基礎的な免疫力を持ってもらうんだよ。この時期を過ぎたものは全て搾乳により搾り取られ、バルククーラーというタンクに貯留されてから、専用のタンクローリーにより出荷されてしまうのよね。 お母さん牛 かわいそう!

 

少し分かってもらえたかい? 牛乳は乳牛からずっと搾り続けられるのではないよ。

 

 


 

産褥性心筋症

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心臓はポンプのように血液を全身に送り出しています。 この働きが低下して全身に必要な血液を送れなくなってしまった状態が心不全です。 心不全自体は疾患の名前ではなく、心筋梗塞・心筋症・弁膜症・不整脈などが原因となって、最終的に至る症候群が心不全であり、全身にさまざまな症状を起こします。

心不全は、だんだん生命を縮める病気です

心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。 心臓が悪くなる原因としては、以下が考えられます。また、それぞれの病気に対して、それぞれ適した治療法があります。

  1. 1血圧が高くなる病気(高血圧)
  2. 2心臓の筋肉自体の病気(心筋症)
  3. 3心臓を養っている血管の病気(心筋梗塞)
  4. 4心臓の中には血液の流れを正常に保つ弁があるが、その弁が狭くなったり、きっちり閉まらなくなったりする病気(弁膜症)
  5. 5脈が乱れる病気(不整脈)
  6. 6生まれつきの心臓病(先天性心疾患)

引用:日本循環器学会・日本心不全学会

 

牛の病気でも心不全につながるものは沢山あります。

創傷性の心膜炎や心嚢炎、心内膜炎等がありますが、我々臨床現場でよく出会うのが、産褥性心筋症です。

産褥性心筋症は分娩後、急激な血中カルシウム濃度の減少と、心不全のような激しい症状を呈して急死する病気です。

体格の良い高泌乳牛に多くみられる傾向があります。

発症牛には次のようなことがみられます。

1、血中カルシウム濃度が正常牛の1/3程度となり、収縮力が弱まり、血圧が低下する。

2、心臓で、心筋細胞が変性、壊死した小病巣が広範囲で存在し、心機能に異常が起こる。

3、発症牛の心臓を電子顕微鏡で詳しく調べると、分娩前から心機能の低下が確認できる。

これらのことから、分娩前から心機能が低下していた乳牛に、分娩後、激しい低カルシウム血症が起こった結果、心臓に十分な血液と酸素が行き渡らなくなり、心筋細胞が変性、壊死して発症すると思われます。

症状は、分娩後起立不能になって横臥、唸り声(呻吟)、苦悶するのが特徴で、重症の場合は発熱、発汗、流涎、遊泳運動が見られます。

治療としては、血中カルシウム濃度を上げ、心臓への血流量の増加を図ることが基本になります。

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臨床的には、重症例にカルシウム製剤を急速に静注してしまっては心臓へ負担が大きく、その場で死亡してしまうことがあるので、リンゲル液でカルシウム剤を希釈しながら点滴します。

丁寧に治療しても死亡してしまうことが多い怖い病気です。

 

ピンクアイ(伝染性角結膜炎)

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人では、角膜炎や結膜炎が細菌やウイルス、真菌等の感染によって発症するようです。

感染性角膜炎の症状

感染性角膜炎とは、角膜に細菌やカビなどが感染して、炎症を起こす病気のことです。角膜とは黒目にあたる部分で、通常は涙に覆われて外部からの刺激や病原体の侵入から守られています。
しかし、角膜に傷が付いている場合には細菌などの病原体に感染しやすくなり、次のような症状が引き起こされます。

感染性結膜炎の症状

感染性結膜炎は、細菌やウイルスが目に感染し、白目の一番表面の膜である結膜に炎症を起こす病気です。目に不快な症状があらわれることがほとんどですが、プール熱のように目の症状だけでなく、のどの痛みや発熱といった、かぜに似た症状を引き起こすこともあります。
 
  • 涙が出る
  • 目がゴロゴロする
  • 目やにが出る
  • 目が赤い(充血する)など
  • プール熱の場合:発熱・のどの痛み

 

牛の場合にも、伝染性角結膜炎で通称ピンクアイという眼の疾病があります。

モレクセラボビスという細菌が目に感染して、結膜や角膜に炎症を起こす病気です。

炎症が強くなると、結膜や白目の部分が赤くなるためピンクアイといわれます。

原因菌を身体につけたハエが牛の目の周囲に止まり、この菌を牛の眼に感染させます。

そのため、この病気はハエの多い夏から秋にかけ発症します。特に集団飼育されている市営牧場等でよく集団発症が認められます。

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片目あるいは両目が感染すると、目が開ききらなかったり、瞬きが多くなります。涙も沢山出ます。この時期に角膜は白い斑点があり、これが角膜炎の始まりです。

さらに結膜炎にもなり、目やにも出るようになってきます。

重症になると、角膜は白濁し、涙や目やにがさらに多くなってきます。気が付かずにそのまま放置すると、角膜の炎症がさらに進み、白い部分が突出し失明してしまいます。

 

治療は、抗生物質の点眼を行います。この病気の原因菌にはほとんどの抗生物質が有効なので、発症牛のほとんどは治ります。

 

 

アキレス腱断裂

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日常生活の中で、時々聞くことのあるアキレス腱断裂という病気があります。

アキレス腱断裂は、踏み込み・ダッシュ・ジャンプなどの動作でふくらはぎの筋肉(下腿三頭

筋) が急激に収縮した時や、着地動作などで急に筋肉が伸ばされたりした時に発生します。 腱

の退行性変性(いわゆる老化現象)が基盤にあると考えられています。 30~50歳のスポーツ愛

好家に多く、レクリエーション中の受傷が多いのが特徴です。

断裂の瞬間は「ボールが当たった」「後ろから蹴られた」ように感じ、痛みが生じます。

アキレス腱断裂の治療には、手術をする手術的治療と手術をしない保存的治療があります。
このうち、後者の保存的治療では長期の固定や免荷(体重をかけれない状態の事)を必要とし、筋力や関節の可動域の回復が悪くなります

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牛にもこれと似たような症状を表す病気があります。

特に乳牛は分娩後の病気として、低カルシウム血症を主徴とする乳熱やダウナー症候群(起立

不能症候群)を多く発症し、その治療経過中に後躯の筋損傷を発症します。

この重傷の筋損傷が筋断裂と言われます。好発部位は、後肢の下腿筋(腓腹筋、浅趾屈筋)、

内転筋です。

特徴的なのが、人間のアキレス腱断裂に相当する腓腹筋断裂です。人のアキレス腱断裂は踵に

近い部分の腱が損傷しますが、牛の場合は、もう少し上の腓腹筋が断裂してしまいます。この

筋肉は大腿骨から飛節に繋がっていて、人間ではふくらはぎに相当します。この断裂により飛

節から先が延ばせなくなり写真のような姿勢になってしまいます。

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牛はそれでも立とうとするから左の写真のように飛節から先を平らに着地したまま、まるでカ

ンガルーのような後肢の形で立ちます。

断裂が不完全な場合は右の写真のように起立可能でナックルという症状の場合もあります。

 

時間が経過すると筋組織の損傷以外にも挫傷や褥創から常在菌の感染や、移動の際に生じる前

膝の挫傷からの感染によるフレグモーネにより前肢も重篤な筋損傷となる場合が多くなります。

牛のような大家畜の場合は残念ながら淘汰の対象となります。

 

 

脂肪肝

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人間で、よく話題になるのが、生活習慣病です。特に我々シニア世代には耳が痛くなる話題です。

生活習慣病とは、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患の総称です。日本人の死因の上位を占める、がんや心臓病、脳卒中は、生活習慣病に含まれます。

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生活習慣病とは、1996年頃から使われるようになった用語です。以前は成人病といわれた、脳卒中、がん、心臓病を、生活習慣という要素に着目して捉え直した用語と位置づけられます。国際的には、これに慢性閉塞性肺疾患(COPD)を加えたNCDs(非感染性疾患)という言葉もよく使われるようになっています。

これとよく似て同じようなイメージの病気が、メタボリックシンドロームです。

たしかに生活習慣病とメタボリックシンドロームは似ていますが、少し違います。メタボリックシンドロームとは、内臓肥満(内臓脂肪の蓄積)があり、血圧、脂質値、血糖値のうち2つ以上に異常を認める症候群のことをいいます。

ここで注意が必要なのが、高血圧、脂質異常症、糖尿病の診断基準に比べて、メタボリックシンドロームの血圧高値/脂質異常/高血糖の基準はやや厳格であるということです。「私は健康診断で高血圧といわれていないから大丈夫」と思っていても、内臓肥満があり、他の検査値異常と合併していたらメタボリックシンドロームに該当することがあるため、油断は禁物です。

f:id:sinmaisinia:20211217095511p:plainウエストが男性で85cm、女性で90cm以上が基準です。

 

 

このメタボリックシンドロームの中の、脂質異常症の部分が牛の脂肪肝という病気と似たところがあります。

乾乳期(分娩前の搾乳していない時期)の太り過ぎた牛にも発症しやすいです。

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脂肪肝というのは、中性脂肪が肝臓に過剰に蓄積した状態です。牛では、主として分娩前後における飼料摂取の低下や飼養管理上のストレス、分娩により泌乳の開始などにより生体が低エネルギー状態になった時に発症します。

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肝臓への脂肪蓄積が多ければ多いほど重篤な脂肪肝となり肝臓の機能が失われます。

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左が黄色く変色した重度の脂肪肝、右が正常な牛の肝臓です。

分娩後などエネルギー摂取が追いつかなくなると、皮下脂肪などの脂肪組織が分解されエネルギー産生のため大量の脂肪酸が血液によって肝臓に流れ込みます。

その流入量が肝臓の処理能力を超えてしまうと、中性脂肪の形で肝臓に蓄積していき、肝臓機能の低下を招きます。

脂肪肝は軽度の場合は明瞭な症状を表しませんが、重度になった場合は食欲廃絶、第一胃運動減弱、ケトーシス(重度)を発症する場合が多くなってきます。

脂肪肝の状態では、第四胃変位、乳熱、胎盤停滞などの周産期疾病(分娩前後の病気)を引き起こし、生産性が低下(牛乳の生産量の低下)してしまいます。

乳牛は分娩後、急に乳量が増加するため、口から摂取する餌だけでは足りないエネルギーを、太っている牛ほど内臓脂肪や皮下脂肪を大量に分解して消費し脂肪肝になります。

 

この脂肪肝を人工的に作って、世界の珍味とか言っているのでが、フランス料理の「フォアグラ」です。

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アヒルに無理やり餌を大量に食べさせ、脂肪肝の病的な状態を人工的に作り出しています。

人間は本当に自分勝手ですね。